就業規則

就業規則は、労働者が働くうえで、基本的なルールを定めているものです。

会社の規模によっては違法となり、罰則が下る可能性もあります。


ご自身の会社がそれに当てはまるかどうか、また、就業規則がない場合のリスクとデメリットについて解説します。

就業規則がないと違法になるのか

従業員が10名以上いる場合は義務

従業員が10名以上いる企業の場合、労働基準法により就業規則の作成が義務付けられています。

この規定を無視し、就業規則を作成しないままでいると違法となってしまいます。

就業規則は、労働者の労働条件・待遇・権利を明確にし、企業と労働者の間でのトラブルを防ぐための重要なガイドラインです。

なお、就業規則の作成義務は、会社単位ではなく事業場単位で課されます。
会社全体で10人以上の労働者がいても、事業場単位では10人未満であれば就業規則の作成義務はありません。

従業員「常時10人以上」とは?

法令では義務となるのは「常時10人以上の従業員」がいる企業です。

この「常時10人以上」という表現について詳しく解説します。

まず、この「常時」には特定の時間帯や瞬間ではなく、一年を通じてその数の従業員が働いている状態を指します。

つまり従業員の数が日々変動しても、年間平均で10人以上いれば「常時10人以上」と見なされます。

また、「従業員」には、正社員だけでなく、契約社員やパート・アルバイトなども含まれます。

ただし役員や業務委託契約の者、派遣社員はカウントされません。

このように、「常時10人以上の従業員」の定義は一見シンプルですが、実際には多くの要素が絡み合っています。

「アルバイトは多くても正社員は10人もいないから、大丈夫」とはなりませんのでご注意ください。

従業員が10名未満の場合は作成義務はない

労働基準法によれば、従業員が10名未満の企業は就業規則の作成義務がありません。

小規模の企業においては個別の労働契約により労働条件を定めることが可能とされているためです。

ただしこれはあくまで「作成義務がない」というだけで、作成しないことが絶対的に推奨されるわけではありません。

就業規則がない場合、労働条件の不明確さからトラブルが発生する可能性があります。

また、契約社員やパートタイムの従業員を雇用する場合も、その労働条件を明確にするために就業規則を設けることが推奨されます。

どのみち企業が成長し、従業員数が10名を超えたタイミングで、就業規則の作成は義務となります。

それなら事前に就業規則を作成しておけば、企業規模の拡大時にもあわてることもありませんので、就業規則の作成は早めにしておくと良いでしょう。

就業規則がない会社のリスク

問題社員がいても懲戒解雇が行えない

就業規則がない会社では、問題を起こす社員に対する対応が難しくなるというデメリットがあります。

具体的には、懲戒解雇という措置が取れなくなる可能性があります。

これは、懲戒解雇は就業規則に定められた行為に限り、実行できるものだからです。

就業規則には、会社の規律を維持するためのルールが明記されており、それに違反した社員に対しては、警告、減給、停職、解雇といった懲戒措置を取ることが可能です。

しかし、ルールが明記されていない場合、問題を起こす社員に対する具体的な対応手段がなく、社内の秩序を維持することが難しくなります。

また、問題を起こす社員を解雇しようとした場合、その解雇が不当解雇とされるリスクも高まります。

具体的なルールがない状態で解雇を行った場合、労働者から見れば「知らなかった」と、不意打ちのように感じられる可能性があるからです。

このような解雇は、裁判所から不当と判断される可能性が高くなります。

したがって、就業規則の存在は、社内秩序を維持し、問題を起こす社員に対して適切に対処するための重要なツールとなります。

未払い賃金請求・損害賠償請求リスク

就業規則がない会社は、従業員からの未払い賃金請求や損害賠償請求といったリスクに直面する可能性があります。

労働者が働いた時間や業務内容についての明確な規定がなければ、労働者が自己申告で賃金を請求することもできます。

また、労働環境や労働条件が不適切であったとして、過労死やうつ病などを発症した場合、会社への責任を問う損害賠償請求訴訟を起こされることもあります。

そして、もし訴えられてしまった場合、会社は訴訟費用や弁護士費用を負担しなくてはなりません。

職場の秩序が乱れる

就業規則の中には、職場の秩序を守るルールとなる、服務規律の項目があります。

全社員統一のルールは、どの会社にも必ずあります。

「許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと」
「許可なく、会社の施設内において、会社の業務に関係のない政治活動、宗教活動等を行わないこと」

などから

「常に健康に留意し、誠意誠実を持って業務を遂行すること」
「服装・身なりは、常に清潔を保ち、他人に不快感を与えないこと」

など、一見当たり前のように見えるものまで規定に記載することができます。

経営者にとっては当たり前のことでも、社員一人一人の認識は全く違う、というのはよくあることです。

だから、社員一人ひとりがどのような態度で業務に取り組むべきか、どのような行動が認められ、どのような行為が制裁の対象となるのかを具体的に理解するために、服務規律に定めていく必要があります。

労働者間でも「やっていいこと、悪いこと」の認識のずれはありますので、チームをまとめるリーダーや主任にとっても、就業規則がなく会社の方針が分からない状態では部下たちの指導に支障をきたしてしまいます。

副業に関するルールが定められない

近年、副業を許可する企業が増えつつありますが、その対応は会社により様々です。

全面的に解禁とする会社もあれば、一部の副業のみ許可制で可能な会社もあります。

副業を制限する場合には、その根拠や制限する際のルールも必要になりますが、就業規則がないとその具体的なルールを労働者が知ることができません。

また、副業についてのトラブルが発生するリスクも増えます。副業が原因で情報漏洩などの事故が発生した場合、会社側が責任を問われる可能性もあります。

休職者への対応ができない

休職制度は、法的な定めがありません。そのため、会社ごとに休職者に関する取扱いは異なります。

休職する際に必要な提出書類、休職中の保険料の控除について、復帰時の待遇などをあらかじめ定めておかないと、会社の対応が後手後手になってしまいます。

さらに、就業規則がないと、休職者が長期間にわたって復帰できない場合の対応や、再発防止に向けた職場環境の改善策の策定も難しくなります。

これは、会社の生産性や労働者のモチベーションにも影響を及ぼすため、経営者にとっても無視できない課題となります。

さらに、就業規則が定められていないことで、病気休職者の待遇が不適切だと感じた場合、労働紛争が生じる可能性も否定できません。

助成金を申請できない

雇用関連の助成金を受給するには、就業規則の整備が不可欠です。

労働基準法では10名以上で作成と届出が義務となりますが、助成金の申請では人数に関わらず就業規則の作成が必要となります。

有給休暇の計画的付与ができない

年次有給休暇のうち、5日を超える分を計画的に付与できる、計画的付与。

この制度を導入するためは、まず就業規則に「5日を超えて付与した年次有給休暇については、従業員の過半数を代表するものとの間に協定を締結したときは、その労使協定に定める時季に計画的に取得させることとする」などのように定めることが必要です。

2019年から、年5日の有給取得が義務化されましたが、あらかじめ計画的付与を定めておけば、スムーズに全社員が取得できます。

そのためにも就業規則に、計画的付与に関する定めをしっかりと記載しておきましょう。

定年退職による契約終了が設定できない

一定の年齢に達した時に労働契約を終了することができるのが、定年制度ですが、この制度は就業規則に明記されて初めて有効となります。

就業規則がなかったり、定年の定めがない場合は、トラブルに発展する可能性が高くなります

例えば、高齢になって元気に働けなくなった従業員がいても、年齢を理由に契約終了とはできません。

労使が合意できれば良いですが、そうでない場合は解雇によることになります。

しかし解雇はトラブルになりやすく、また長い間、貢献してくれた社員を解雇する手段は他の社員の反感を買うことになります。

また、定年を迎えた従業員に対しても、退職時期や退職金などの待遇を明確に示せないため、従業員の労働意欲やモチベーションを低下させる恐れがあります。

さらに、このような不明確な状況が労働争議を引き起こし、企業のブランドイメージを損なう可能性もあります。

裁判で会社が不利になる

就業規則が存在しない会社は、労働裁判において不利な立場に立たされる可能性があります。

というのも、具体的な労働条件や職場のルールが明文化されていないと、労働者と会社間のトラブルが発生した際に、どちらの主張が正当かを決める目安がなくなるからです。

この結果、裁判所は労働者保護を優先する傾向があるため、会社側が敗訴するリスクが高まります。

特に、労働時間、休憩・休日、賃金、解雇等の基本的な労働条件についての規定がない場合、労働基準法違反の疑いが生じ、罰則が科される可能性もあります。

さらに、就業規則がないという事実自体が、労働環境の改善に対する会社の姿勢を疑われ、社員のモラル低下や離職率上昇を招くこともあります。

就業規則は労働者への周知が必須

就業規則の周知は、法律で義務付けられております。

労働基準法第106条において、「使用者は、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない」とされています。

この周知義務を履行しない場合、30万円以下の罰金に処せられます。

そして就業規則の周知は、労基法を守るだけではありません。

就業規則の効力は、周知した日からとなります。

つまりせっかく作成・届出をしたとしても、そのまま見えない場所に保管してしまっては、有効とはならないのです。

周知の手段は、規則を社内の掲示板に掲示する、社員に対して配布する、またはデジタル化して社内ネットワークでアクセス可能にするなど、様々な方法があります。どの方法を選択するにせよ、従業員がいつでも簡単に参照できるようにすることが重要です。

就業規則が周知されていない場合、従業員は自分の権利や義務を理解できず、仕事に対する不満や問題が発生しやすくなります。これは、モラルの低下や生産性の低下、高い離職率といった形で企業にネガティブな影響を及ぼす可能性があります。

また、就業規則が周知されていない場合、労働者が不適切な処遇を受けたと主張した場合、企業は法的な問題に直面する可能性があります。そのため、就業規則の周知は、企業のリスク管理の観点からも非常に重要な要素となります。

以上のように、就業規則は労働者への周知が必須であり、それを怠ることは企業にとって多大なリスクをもたらす可能性があることを理解することが重要です。

就業規則の周知の方法

就業規則を周知するとは、「いつでも従業員が確認できる状態にしておく」ということです。

誰でも手に取れるような、事務所の掲示スペースや休憩室などに備えつけるような状態のことです。

そのほか、社内ネットワークを導入している会社であれば、ネットワーク上で誰もがアクセスできる場所に保管することで、就業規則の共有ができます。

契約社員やパートの就業規則

契約社員やパートタイムの従業員が働く場合、その就業規則は正社員と異なる場合があります。

パートタイマー就業規則は必ずしも作成する義務はありませんが、通常の労働者と福利厚生面等が異なる場合には、必要となります。

例えば、「パートタイマーやアルバイトには、退職金はない」「パートタイマーやアルバイトには休職制度は適用されない」等のルールがある場合です。

就業規則にその旨を明記しない場合は、今ある正社員の就業規則が全員に適用されてしまいますのでご注意ください。

ただし、正社員とパートタイマー等で労働条件等が異なる旨を、通常の就業規則の中で網羅できてしまえば、パートタイマー就業規則を新たに作成しなくても問題ありません。

 

 

就業規則の作成や届出義務がない小規模事業主の対応

10人未満の事業場であれば就業規則の作成と届出の義務はありませんから、そもそも就業規則がない事業場でも違法とはなりません。

もちろん10人未満で就業規則と作成の義務がない事業場であっても、就業規則を定めることが一番望ましい対応です。

もし現状で就業規則がない場合は、各自の雇用契約書(労働条件通知書)の作成時に注意が必要です。

就業規則がない場合、雇用契約書(労働条件通知書)の内容が重要な意味を持ってきます。

各人の労働条件を、抜けもれなく雇用契約書(労働条件通知書)に記載しないと、労働条件の明示義務違反で違法となってしまうからです。

ですが、就業規則に書くべき内容まで雇用契約書(労働条件通知書)に全てを記述していたのではボリュームがあまりに多くなってしまうため、現実的ではありません。

全体で統一しているルールは就業規則に記載する。

作成義務があってもなくても、それが最も合理的でトラブル防止の観点からも望ましい対応となります。

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